2014/12/06 Category : エッセイ 選挙 アベノミクス解散だと言うが、経済専門家でも議論が二分している施策を一般国民がどう判断せよというのか。急ぐ理由のない解散に意味を付けるなら、本当の争点はそれではないところにあると思える。 イラク戦争に際し、我が国は人道復興支援活動として6年間で延べ1万人の自衛隊員を送り、比較的治安が安定しているとされたサマーワを中心に安全確保支援活動を行った。サマワ宿営地は13回、22発のロケット攻撃を受けたが、死者は出なかった。記念式典(隊旗返還式)では、活動を終えた隊員に、当時の小泉首相が「全員が無事帰国できた・・・」と述べた。しかし、帰国後、隊員の自殺者が28人も出ていたことが、今年4月のNHK「クローズアップ現代」で放映されていた。 国家とは領土、国民、統治権から構成される概念だ。「国を守る」と言うと聞こえはよいが、問題は統治権行使の主体である。統治権は選挙によって為政者に託されているが、福島原発事故後の国の対応を見れば、為政者の影に連なる利権集団の<自衛権の行使>により、統治権は多数の国民の願いとは違う方向に使われているようだ。 閣議決定で憲法解釈を変えるというのも、民主主義から遠いところにある。集団的自衛権の発動となった場合、「特定秘密保護法」を根拠に、発動決定に至る具体的背景などは国民から更に遠い情報となるであろう。 若者の多くが自衛隊を「就職先」として考えているなら、生死に直面するリスクの高い「職場」への志願者も減るだろう。少子化がさらに進めば徴兵制につながる道を開くことが懸念され、「憲法を変えなければ集団的自衛権が行使できない」とさえ言われかねない。様々な疑念に対し、防衛がどうあるべきかの議論は尽くされてはいない。秘密保護法も同様である。「企みを挫く」という首相の言葉はどの国を念頭にしているのか、中韓朝への国民不安を煽るだけで、憲法解釈の変更がなされたように感じた人は多いはずだ。 アベノミクスの結果はいずれはっきりするが、へそ曲がり的に見ると、余裕ある世代、階層であっても政府が望むようには金を使わないと思える。非正規労働者の比率は40%近く、2千万人近い。非正規労働に甘んじる子を持つ親は、子どもの未来への不安から貯蓄に走るだろう。いくらかの余裕を株式等に注いでいる親にしても、その運用益は再投資され購買力の底上げは限られよう。 正規労働者も増えるとは思えない。産業構造の転換に伴って、必要な正規雇用そのものが少なくなっている。情報技術の発達により、かつての庶務や管理などの業務は大幅に機械化され、人員の整理が進んだ。さらにグローバル経済の発達により、企業は、リスク分散のための海外進出や非正規労働者の調整で景気の世界的変動に対応しようとする。国内事情や政治要請だけで動けないほど、多くの企業が変質し国際競争にさらされている。埋もれた労働力、貧困にあえぐ労働力の行き場をつくらねばならない。 地方の時代が言われだしてから40年以上が経つが、各地で一村一品運動などに取り組み出した当時は、成熟社会の未来像をまだ思い描けてはいなかった。政党も欧米に追いついた後の日本の進むべき未来を示せなかった。しかし今、想像力を働かせれば、未来はかなり見えてきたように思える。 それは新たな労働集約型の産業を地方で興し、正規雇用を増やすことだ。少々経済的に苦しくても、安全・安心の中で充実した日々を選択したいという国民が確実に増えている。弱者に優しいまちづくり、マイクログリッド、スマートグリッドによる省電力化社会の推進、六次産業による地域循環型社会の形成など、点りだした新産業の芽を育み、組み合わせ、統合発展した「地方の時代」、それが未来に向けた国づくりの柱の一つとなろう。そこに経済再生施策の重点を置くべきだと思う。 そうは言っても、<無駄>という悪魔はどんな時でもスッと忍びこんでくるものだ。疲弊した自治体においてさえ例外ではない。数年前、再生途上の夕張市で、市営住宅の建て替えが議論された時、計画図面を前に、風呂はいらないと発言したケアマネージャーがいた。夕張は共同浴場でコミュニティが守られてきたし、住む人は風呂掃除も難しく、風呂栓もうまく抜けない高齢者が多いから、風呂より住宅そのものの充実を、と言うのだ。まちづくりの視点は常に現場とともにあるべきなのだ。<利権>という悪魔に対しても、「企みを挫く」同様の視点が必要であることはいうまでもない。 無駄な箱物行政の愚を見抜き、生活弱者に寄り添い、住民の日常に目を配ることを生業としている人たちの意見を広く酌み取る政治家に一票を投じたいのだが、その人が見つからないで困っている。 [3回]PR Comment0 Comment Comment Form お名前name タイトルtitle メールアドレスmail address URLurl コメントcomment パスワードpassword