忍者ブログ

碧濤のひとりごと

Home > ブログ > > [PR] Home > ブログ > エッセイ > 老顔

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

老顔

 人はいつから年取った自分の顔を意識するのだろうか。
 昨晩のことだった。若い人たちとの楽しい会合が終わり、一人地下鉄に乗って帰途についた。終電間際の時間帯で混んではいたがちょうど席が一つ空いていた。左は酔いつぶれて眠る若者。右は痩せた中年男。酒は飲んでいないようだった。
 しばらくすると、右隣の中年男が何やら動きだし、手団扇をし始めた。最初は暑いのかと思っていたが、どうもそうではない。飲みすぎた僕の体からしみ出す、酒のニオイに閉口している素振りだった。
 到着駅までせいぜい5分。僕はなるべくゆっくり息を吸い、なるべくゆっくり息を吐いて、ニオイが拡散しないよう、顔を少し左に向けて無駄とも思える努力をした。しかし、手団扇の男は我慢の限界とばかりに立ち上がり、呻きとも、咳払いとも言えないような小さな奇声を発しながら戸口へと向かった。
 地下鉄がスピードを落としたので、僕もやおら立ち上がり降り口に立った。そして戸袋の小さな鏡に映る自分の老顔に愕然となった。それは十年以上前に他界したはずの父の顔でもあったからだ。
 意識は正常のつもりだったが、映っていたのは、ただの年老いた、だらしのない、酔っぱらいの顔であった。
 どやどやと降りた人の中には、予期したように、手団扇の男はなかった。
 人はどのようにして老顔を意識するのだろうか。
 僕は階段を一足一足上りながら、背後に遠ざかる地下鉄の音を聞いていた。

拍手[0回]

PR

Comment0 Comment

Comment Form

  • お名前name
  • タイトルtitle
  • メールアドレスmail address
  • URLurl
  • コメントcomment
  • パスワードpassword

PAGE TOP