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碧濤のひとりごと

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何が起きているのか

 一週間ほど前、札幌白石区で40代姉妹の遺体が発見された。昨年12月半ばの延滞家賃振り込み後連絡が取れなくなったと、マンション管理会社から通報を受けた警察が発見したものだ。知的障害のある妹の面倒を見ていた姉が脳内血腫で急死し、妹はその一月後の最近に凍死したらしい。ガスは11月に止められ、遺体発見時、姉は厚着の上にジャンパーを着ていたというから、生活に困窮していたのだろう。生活保護の担当窓口には何度か訪れているが、公的援助は受けられないまま死を迎えた。
 釧路でも認知症の夫を抱える妻が病死し、その20日後に夫が凍死した事件が報道されたばかりだったから、なんとなく公的業務の事務的処理の延長線上で社会的弱者が命を脅かされている、そんな思いを持つ人たちは多かったのではないか。
 日本もアメリカも人口の15%が貧困層(4人世帯の年収が約200万円以下のイメージ)だ。そのアメリカの大企業の最高責任者の年収は平均的労働者年収の340倍という。30年前の格差は40倍だったというから、この間、『人口の1%が富を独占する』状態に向かって進んできたのは間違いなかろう。
 2010年12月、街頭での販売許可がないと商品を没収され、賄賂を要求された失業青年の抗議焼身自殺に端を発したチュニジア革命、引き続くエジプト革命はアメリカの99%層に火を付け、OWS(ウォール街を占拠せよ)の運動につながっていく。運動の中心地ズコッティ公園で哲学者スラヴォイ・ジジェクは集会参加者に語った。
 「我々が自由だと感じているのは、我々の不自由を明確に述べる言葉が不足しているからだ。民主主義と自由、人権などニセの言葉が状況認識を誤らせ、考えられなくさせる。だが、この運動(OWS)が存在していることこそ、我々がいかに自由を欠いているかの表れなのだ」
 福島原発事故を経験し、我々もまた、自由というものの幻想に気づいたはずだ。それはいつの間にか「ゆでガエル」になっていく自由であった。偽善の自由の中で暮らしていけた時代は為政者も99%を欺くことができたということだ。高祖岩三郎は雑誌『世界』の2月号で「現在我々ほとんどは、今後1%のやることを放っておけば、人間社会のみならず地球自体が破滅するという直観的判断を共有しているが、おそらくこれは間違いではないではないだろう」と述べている。全く同感である。ジジェクは次のようにも言う。
 「腐敗や強欲が問題ではない。問題は我々にあきらめることを強いる制度だ」「本当に難しい問いに我々は直面している。何がほしくないのかは分かった。では何がほしいのか?資本主義に代わるどんな社会組織がありうるのか?どんなタイプのリーダーを求めるのか?」
 40代姉妹の遺体が発見された、という事件報道には、いま全世界で起こっていることと全く同種の、ジジェクからのメッセージが孕まれていると思われてならない。

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