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碧濤のひとりごと

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思想脳老

 脳の老化であろう。小さな字が読みにくいからとか、興味がないでは片付けられないと思うのが、電化製品などの取り扱い説明書を読む億劫さである。どのスイッチがどんな働きをするのか、いちいち調べるのが面倒くさい。簡単な、組み立て式の家具なども、完成するまで一苦労だ。タレントや政治家の名前もなかなか出てこないし、いま、話している知人の名さえ忘れているなんていうことまである。
 テレビに向かって「それは違うだろう」「お前さんが責任者だろうが」などと声を荒げる場面が多くなっているが、腹の立つ感覚だけがあって、事柄の詳細を反すうして筋道を立ててから腹立っているかどうかは極めて怪しい。
 学生運動が盛んだった’70年代、政治に興味を示さず終えた学生時代だったが、あの頃が今なら、自分もノンポリ学生ではあり得なかった、などと思いつつ、今の無関心な世相を許した一人が自分ではないかと、これまた腹を立てる。<思想脳老>だ。
 「最低でも県外」と沖縄県民を期待させて突き落としたあたりから、政治への腹立ちも激しくなり、3・11の大震災以降、思想脳老の症状は死相脳老に進んだかも知れぬ。
 今後、被ばくした子供の話し相手くらいはしていくつもりだが、こんな日本でも、海外の若者たちからはクール(かっこいい)と思われている面も多いらしい。マンガやアニメ、ファッション、料理や伝統工芸の中に、かっこいい日本を感じるのだそうだ。
 世界には汚職が蔓延し、人身売買が平然と行われる国もあるから、日本はそう悪い国ではないのかもしれない。若い時代、年寄りの頑固さが気になっていたが、時代が変わったのではなく、自分が老化しただけなのだろう。
 説明書、解説書の類は読まない質の妻は、それで老化をはかれないが、人の名前は思い出すまで考えているし、こちらが忘れている昔のことを感心するほど憶えているから、当分大丈夫だろう。私は、晩酌も影響してか、妻より先に呆けるに違いない。 
 来年になれば私も、社会が認める、りっぱな高齢者になる。“りっぱな”とは公共施設の利用料も格段に安くなるという意味だ。今年は、腹を立てずに恩恵に感謝する高齢者となるべく精出した方が、思想脳老の療養には役立ちそうではある。 

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